こんにちは。はれまちクリニック副院長の小野です。
「汗をかかない体質って、うらやましい」
汗っかきの方からすると、そう思えるかもしれません。でも、汗がほとんど出ないのは、実はかなりつらいことなんです。
このたび、私も共著者として加わった症例報告が、日本皮膚免疫アレルギー学会の英文誌『Journal of Cutaneous Immunology and Allergy』に掲載されました。金沢医科大学皮膚科で診療にあたった症例です。論文の中心となってまとめてくださったのは筆頭著者の先生で、私は2番目の著者として診療に加わりました。
テーマは、10年ものあいだ「汗が出ない」状態が続いていた方を詳しく調べたら、思いがけない病気が見つかったというお話。論文は英語ですが、患者さんにもぜひ知っていただきたい内容なので、できるだけやさしくご紹介します。
この記事でわかること
- 汗が出ないと、なぜつらいのか
- 汗の出ない場所を「見える化」する検査
- 「汗が出ない」から見つかったシェーグレン病のお話
- 受診を考えたいサイン
そもそも汗は「からだの打ち水」
汗は、体温を下げるための大切なしくみです。皮膚の上で汗が蒸発するとき、体の熱をいっしょに奪っていきます。夏の打ち水と同じ原理ですね。
その力はなかなかのもので、コップ半分ほど(約100mL)の汗がしっかり蒸発すれば、体重60kgの人の体温を1℃ほど下げられる計算になります。ちなみに、蒸発せずにポタポタと流れ落ちてしまう汗は「無効発汗」と呼ばれ、体を冷やす役にはあまり立ちません。
つまり汗が出ないと、体の熱を逃がす手段が大きく減ってしまいます。暑い場所では熱がこもり、熱中症のような状態になりやすいのです。
10年間、汗が出なかった
今回の患者さんは50代の女性です。10年ほど前から汗が出にくくなっていましたが、医療機関にはかかっていませんでした。夏はエアコンの効いた部屋にいても体に熱がこもり、保冷剤などで冷やしてしのいでいたそうです。皮膚科を受診されたとき、皮膚に発疹などはありませんでした。
汗の出ない場所を「見える化」する検査
汗がどこで出て、どこで出ていないのか。それを目で見て確かめるのが「ミノール法」という検査です。
皮膚にヨウ素の液を塗り、その上からデンプンの粉をはたいたら、体を温めて汗をかいてもらいます。すると、汗が出たところだけヨウ素とデンプンが反応して、黒っぽい紫色に変わります。
この方の場合、色が変わったのは体のごく一部だけ。体の表面のおよそ98%で、汗が出ていなかったのです。
まず考えたのは「原因不明の無汗症」
全身の汗が出なくなる病気として、皮膚科医がまず思い浮かべるのが「特発性後天性全身性無汗症(AIGA)」です。ある時期から、はっきりとした原因がないまま全身の汗が出にくくなる病気で、若い男性に多いことが知られています。汗をかくような場面で皮膚がチクチクと痛んだり、小さなじんましん(コリン性じんましん)が出たり、血液検査で「CEA」という値が上がったりすることもあります。
この方は、診断基準のうえではAIGAにも当てはまりました。ただ、50代の女性で、チクチク感やじんましんはなく、CEAも正常。AIGAの“よくある姿”とは、少し違っていました。
診断のカギは「汗と関係なさそうな話」
詳しくお話をうかがうと、汗のほかに、こんなことがわかりました。
- 以前から、口が渇く
- 目も乾く
- これまでに、たくさんの虫歯を治療してきた
一見、汗とは関係なさそうですよね。でも、これが診断の大きな手がかりになりました。
血液検査では、CEAや甲状腺の値、血糖値は正常。一方で、抗核抗体と抗SS-A抗体という「自己抗体」(自分の体の成分に反応してしまう抗体)が陽性でした。シェーグレン病が疑われたため、リウマチ科の先生に診察をお願いしました。
シェーグレン病と診断
リウマチ科では、唾液や涙の量を調べる検査が行われました。どれも、ちょっとユニークな検査です。
- ガムを10分間かんで、出てくる唾液の量を測る:目安は10mL以上のところ、約4mL
- ガーゼを2分間かんで、しみこんだ唾液の重さを量る:目安は2g以上のところ、約0.6g
- 下まぶたに細い紙をはさみ、5分間で涙がしみる長さを測る:目安は5mm以上のところ、2〜3mm
さらに、唾液腺のはたらきを調べる画像検査や組織の検査も行い、シェーグレン病と診断されました。
そもそもシェーグレン病とは?
自分の免疫が、涙や唾液をつくる腺などを誤って攻撃してしまう病気(自己免疫疾患)です。目や口の乾き、だるさ、関節の痛みがよくみられ、中高年の女性に多いことが知られています。以前は「シェーグレン症候群」と呼ばれてきましたが、最近は「シェーグレン病」という呼び方が広まりつつあります。
汗が出にくくなる方もいますが、「全身の汗が出ない」ことがきっかけで見つかるのは、とても珍しいケースです。
汗腺の「中」をのぞいてみると
ここからは、ちょっとミクロの世界へ。
汗をつくる「汗腺」には、主に2種類の細胞が並んでいます。顕微鏡で見ると明るく見える「明細胞」と、暗く見える「暗細胞」。名前はそのままですが、ふだんは内側と外側に分かれて、きれいな2層構造をつくっています。
この方の汗が出ない部分の皮膚を調べると、汗腺の細胞が水ぶくれのようにふくらむ変化(水腫性変性)がみられました。さらに、2種類の細胞を緑と赤に染め分ける特殊な染色をしてみると、本来はきれいな2層に並んでいるはずの細胞が、ばらばらに入り乱れていました。
一方で、シェーグレン病の汗腺でこれまで報告されてきた「炎症細胞がたくさん集まる」「汗腺がしぼむ(萎縮)」といった変化は、はっきりしませんでした。10年という長い経過のなかで炎症はおさまり、その“爪あと”が残っていたのかもしれません。
なお、こうした変化はAIGAでもみられるため、もともとあったAIGAにシェーグレン病が重なった可能性も、完全には否定できません。そうした点もふまえたうえで、論文では「シェーグレン病に伴う全身の無汗症」と考えています。
論文の図3では、この緑と赤の染め分け写真を、汗がふつうに出る皮膚と見比べることができます。英語の論文ですが、写真を眺めるだけでも違いがよくわかりますよ。
治療とその後
シェーグレン病の診断後、ステロイドを点滴で3日間使う治療(ハーフパルス療法)を行い、その後は飲み薬に切り替えて少しずつ量を減らしていきました。
治療のあと、汗がすぐにはっきり戻ることはありませんでした。1年後に、手や頭にわずかに汗を感じるようになった――という経過です。
シェーグレン病に伴う無汗症には、まだ確立した治療法がありません。ただ論文では、今回みられた“水ぶくれ”の変化は汗腺が壊れきってしまう前の段階である可能性があり、早めに治療を始められれば回復の余地が残っているかもしれない、と考察しています。
この症例から伝えたいこと
- 「汗が出ない」は、汗や皮膚だけの問題とは限りません
- 口の渇き、目の乾き、虫歯が多いといった、一見関係なさそうな症状が、診断の手がかりになることがあります
- 診察では「これは関係ないかな」と思うことも、遠慮なく話してみてください
皮膚科で「口は渇きませんか?」「虫歯は多いほうですか?」と聞かれたら、それはちゃんと理由のある質問なんです。
論文の情報
Case Report: Sjögren’s disease diagnosed following generalized anhidrosis
Shimada Y, Ono H, Tochigi M, Taga F, Shimizu A, Kawano M, Asahina M, Sano K.
Journal of Cutaneous Immunology and Allergy. 2026; 9: 17427.(2026年9月23日掲載)
DOI:10.3389/jcia.2026.17427
オープンアクセスのため、どなたでも無料でお読みいただけます(英語)。
※本記事は、学術論文の内容を一般の方向けにわかりやすく紹介したものです。症例は金沢医科大学病院で診療したもので、ご本人の同意を得て論文として発表されています。個別の症状や治療については、主治医にご相談ください。
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